2021年10月06日
元信託銀行・株式ファンドマネージャーから No.25
<地政学、覇権国>
地政学(ジオポリティクス)は、安全保障、外交、国家戦略等に関わる軍、諜報機関、外交官、官僚、政治家等々における基本的な認識尺度で国際政治での国家の冷酷な振舞いを捉え、その影響について考える上で役に立ちます。最近は地政学関連の多くの本が出版され、ちょっとしたブームになっています。
覇権国(ヘゲモン)は、かつて大英帝国、現在アメリカ合衆国です。覇権国は勢力を増した2位の国(チャレンジャー)に対し、3位以下の国と協力しながら、挟み込んでそのチャレンジャーの国力を削ぐことでパワーをバランスさせようとします。
ではアメリカ合衆国は、これまで覇権国としてどういう動きをしてきたのでしょうか。
米ソ冷戦は1989年に終結して、東欧革命、1991年7月ワルシャワ条約機構解散、同年12月ソ連邦崩壊と続きました。2021年現在、親ロシア国は、ベラルーシ、アルメニアくらいです。
前後して中華人民共和国が新たなチャレンジャーとして登場します。
鄧小平、江沢民、胡錦涛時代、改革開放の裏で西側諸国に超限戦を仕掛けていました。西側諸国への静かなる浸透の時代です。
習近平は、西側諸国の価値観の順守から新たな覇権国になるための方策を打ち出します。覇権主義の標榜です。
・一帯一路、AIIB、戦狼外交。
・チベット自治区、新疆ウイグル自治区の弾圧、香港民主化弾圧。第一列島戦の外側に進出意欲を示す。
・台湾、尖閣諸島などに対する挑発を繰り返し、相手が弱腰であれば圧迫するスタイル。
・国連などの国際機関、日米欧各国の政治家、官僚、メディア、学会、経済界の幹部に諜報活動(すでに長期間
にわたってマネートラップ、ハニートラップなどを仕掛けているとも)。
現在の覇権国であるアメリカ合衆国を地政学観点から見ると・・・
(1)第一次世界大戦中、戦後に、金が流入
覇権国家への準備期間。FRB誕生。
(2)ブレトン・ウッズ体制構築、第2次世界大戦のチャレンジャー(ナチスドイツ、大日本帝国)を打破
(3)第2次世界大戦後、かつてのチャレンジャー(西ドイツ、日本)を軍事、経済拠点化、ソ連との冷戦体制
に突入
(4)朝鮮戦争、ベトナム戦争、中東戦争等、リムランドにあたるユーラシア大陸沿岸部での紛争に大きく関与
(5)ニクソンショック
米ドルと金の兌換を停止、変動相場制突入しました。
その結果、外国為替、証券投資、デリバティブ取引が活発化し、世界はカジノ経済化(過剰な金融取引が
常態化)しています。原油のドル建て決済化と原油価格上昇容認からオイルショックも起こりました。
(6)もう一つのニクソンショック
対ソ連の戦略上、米中が接近しました。日中も接近しました。
(7)プラザ合意、日米構造協議、日米半導体協定
日本の競争力を削ぐ方向に展開されました。
(8)1989年米ソ冷戦終結、旧ソ連、同陣営(ワルシャワ条約機構)崩壊
ロシアの資源は草刈り場になりました。
(9)イスラム圏不安定化
原油産出地域である中東地域で、旧オスマン・トルコのような統一的な政権の誕生を阻んだ結果です。
(10)9.11テロ、アフガニスタン侵攻、イラク戦争、アラブの春、イラン(旧ペルシャ帝国)経済封鎖
イラクに中国が接近しました。
(11)プーチン覚醒、ナショナリズム回帰、ロシア再独立
西側はEU拡大、カラー革命、ロシアへの経済封鎖で対応します。
(12)中国の浸透工作が成功
米国は「中華人民共和国が経済成長することによって民主主義が定着する」と油断した一方で、中国は
習近平が一帯一路、AIIBで覇権主義を先鋭化させてきました。
ドナルド・トランプが登場して起こったこと
(1)グローバリズムからの脱却を目指す
グローバル企業が人件費等の経費削減のため、中国等新興国を「世界の工場」にすることで犠牲にした米
国内の雇用喪失、雇用の質の悪化を問題視。2016年大統領選挙でヒラリー・クリントンが言った「忘れら
れた気の毒な人びと」を支持層としました。
(2)世界の覇権を目指す中国共産党に警戒感を強める
2007年、当時の安倍首相が提唱して、自由と繁栄の弧、QUAD(米日豪印)インド・太平洋構想が始まり
ました。米軍はNATO重視から中東への関与、アフガニスタン紛争を経て西太平洋へと重心を移します。
米軍は陸海空軍、沿岸警備隊、海兵隊(従来の5軍)+宇宙軍体制となり領域を拡大させました。
(3)ドナルド・トランプ前大統領は、中華人民共和国を主敵とし、ロシアとの対立を好まず
また、民主主義制度(議会のプロセス)の頭越しにルールを作ろうとする国連、NATO、多国間協定を嫌
いました。TPP<FTA、経済・安全保障面で国家に自立重視のスタンスを貫きます。MAGA(Make
America Great Again)運動を展開しました。
バイデン政権になっても、安全保障面ではトランプ前政権が引いた路線が踏襲されており、足元で支持率が低下しているバイデン政権の失政が続くようであれば、来年(2022年)の中間選挙で共和党が議席を伸ばし、バイデン政権が掲げる政策の議会での法案通過が難しくなることなどにより、金融市場に影響が出る可能性を視野に入れる必要があります。
(令和3年10月)
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