元信託銀行・株式ファンドマネージャーから No.22 <米国民主党におけるリベラルの概要、その勢力分類、特徴について>

2021年09月13日

 

元信託銀行・株式ファンドマネージャーから No.22


<米国民主党におけるリベラルの概要、その勢力分類、特徴について>

 

 米国民主党の勢力分類、特徴について述べる前に、民主党を構成するリベラルの概要について触れてみたいと思います。

 

 米国におけるリベラルとは、「国家が経済活動に介入して国民の自由を実現すること、国家が州の政治や教育まで介入し、個人の自由を守るなど「国家の役割を積極的に認める思想、立場」のことを意味します。

 米国は、自由を求める人々によって建国された国家であり、ヨーロッパ的な権威主義や保守主義の伝統から決別した立場に基づいているとし、本ブログNo.20で述べた典型的な米国人像から、ピルグリム・ファーザーズの伝統を踏襲した宗教的な要素を薄めた、もしくは取り除いた立場の人たちと言えます。

 

 リベラルについてのより具体的な内容について、以下に述べます。

 

1.政策的な傾向

・公共事業や福祉政策、国民皆保険について、政府が担うべきと考える。

・人種差別の撤廃や移民の受け入れに積極的。

・銃規制は必要との立場。

・学校での礼拝は必要ないとの立場。

・労働者の保護、雇用政策、格差是正は、政府が行うべきと考える。

・国際社会での覇権や軍事力の維持については、民主党内でリベラル色が強い人たちの間では、必要ないとの立

 場。

 

2.地域的な傾向

 「東部エスタブリッシュメント」≒都会に住み、ある程度の収入や社会的立場、学歴を持っているホワイトカラー(かつては共和党支持)が多い北東部、西海岸が大半を占めており、これら以外の地域においても都市部にリベラルは多い。

 

3.歴史的な変遷

・リベラルの誕生(1930年代)→リベラルの全盛(1960年代)→リベラルの下降(1980年代)→リベラルの変

 化(1990年代)→現在 という流れになる。

・リベラルの起源は、ニューディール政策・・・1930年代、アメリカのルーズベルト大統領が、世界恐慌から立

 ち直るために公共事業や大規模な雇用の支援などを実行した「大きな政府」的な政策

 

・リベラルの全盛期(1960年代)

 (1)公民権運動・・・1950年代から1960年代にかけて、アメリカの黒人を中心としたマイノリティが、自分

    たちの権利の保障を求めた運動

 (2)ジョンソン政権におけるリベラルな政策

    ① 公民権運動に対して、人種差別撤廃を決めた「公民権法」を成立させる

    ② 高齢者の医療費補助(メディケア)

    ③ 低所得者の幼児の就学補助(ヘッドスタート)

    ④ 低所得者の食費補助(フードスタンプ)

    ⑤ 連邦奨学金や給付奨学金制度

    ⓺ アファーマティブ・アクション=マイノリティの社会経済的な是正措置

 

・リベラルの下降期(1980年代)

 黒人・有色人種への優遇政策や、同性愛者の権利の保護、フェミニズム、性教育などの政策が行われるように

 なると、優遇を受けない白人や中間層の人々の一部は、「そこまでやる必要ないのでは?」と批判し始めた。

 行き過ぎたリベラルの反動として、ネオコン、宗教右派、リバタリアン、伝統主義などの共和党を構成する諸

 派が台頭。

 

・リベラルの変化(1990年代~)

 (1)クリントン政権における中道化(リベラル・ホーク)・・・リベラルから保守に傾いたというよりも、旧

    来の対立軸とは異なる思想という見せ方をした。

    ① 保守・リベラルという対立軸からの決別

    ② アメリカ国民の生活が第一

    ③ 国内経済の再生が最優先

    ④ 安全保障のためにも、経済成長と経済面でのアメリカのリーダーシップが重要

 (2)オバマ政権・・・元祖リベラルへの回帰

    ① 医療:国民皆保険の実現のための法案を成立

    ② 安全保障:国際協調的、軍事力の行使に消極的、対話・外交重視、核兵器廃絶

    ③ 移民:移民の権利を認めるために制度改革を主張

    ④ 環境:気候変動政策への積極的姿勢

    ⑤ 先住民:生活を支援

    ⓺ 同性婚:同性婚を支持、同性愛者の権利を認める

    ⓻ 人工妊娠中絶:賛成

 

 

 リベラルの勢力分類について申し上げると、大きく「中道派」と「リベラル派」に分けられます。

 各々の特徴は、基本的には民主党員個々人が意識するリベラル度合いによります。

 

 注意すべきは「中道派」であり、対外政策においてネオコン同様に、介入主義的であるリベラル・ホークといわれているグループを内包しています。

 リベラル・ホークは、ウッドロー・ウィルソン、フランクリン・ルーズベルト、ハリー・トルーマン、ジョン・F・ケネディ、リンドン・ジョンソンら各大統領の系譜を継ぐ勢力であり、朝鮮戦争やベトナム戦争などを支え、かつては冷戦リベラルとも呼ばれていました。

 

 現在の民主党の勢力図に重なるバイデン政権の特徴について、以下に列挙してみます。

 ・ バイデン大統領自身は、上院議員の期間が長く、ワシントンのエスタブリッシュメントであり、民主党中

   道派。リベラル・ホークと深い関係がある。

 ・ バイデン政権および議会民主党は、リベラル・ホークと極左の連合体であり、国内政策面では、第3次オバ

   マ政権の色彩が濃く、共産主義的ともいえる。

 ・ 9.11後に、ブッシュ・ジュニア大統領が始めたイラク戦争が泥沼化するにつれ、反戦リベラル的な世論が、

   普段は愛国的な労働者層にまで浸透したことが、民主党をリベラルに回帰させた。つまり、左傾化したこ

   とでかつてシカゴの黒人貧民街で住民組織化のリーダー「コミュニティ・オーガナイザー」をしていたバ

   ラク・オバマ氏が大統領になることにつながった。

 ・ 民主党における新たな潮流は、「女性」、「新たな左派」、「プラグマティスト」。

 ・ 「女性」・・・女性の登用が進んでいる。「#Me Too」運動のような過激な一面を持つ。

 ・ 「新たな左派」・・・「社会主義」の拒絶反応のない新世代であり、若年リベラル票と言い換えられる。

   リベラル派の若年層の政治意識は益々高まっているが、その矛先は必ずしも民主党の党勢拡大ではなく、

   継続して社会主義者であるバーニー・サンダース支持に向いている。2018 年中間選挙では、18 歳から24

   歳の最も若い層では、民主党68%、共和党31%、25歳から29歳の層でも民主党66%、共和党33%で、若

   年層の民主党支持は色濃くなった。

 ・ 「プラグマティスト」・・・2016年選挙当選組の下院議員で軍やインテリジェンス出身の愛国心の強いグ

   ループ。外交・安保でも強い「マスキュラー」なリベラルとして、数世代後には主流になると期待されて

   いるグループ。

 

 次に、現在の民主党の問題点について、以下に列挙します。

 ・ 民主党の政治家が、安易に「アイデンティティ政治」で票を取ろうとしている。自集団の自己主張だけを

   野放図に拡大する民主党の「アイデンティティ政治」の問題は、次のような事例から露見している。

   (事例) 

   エリザベス・ウォーレン氏の「先住民 DNA 騒動」

   先住民の血が入っていると主張してきたウォーレン氏に対し、トランプ大統領は「ポカホンタス」と小馬

   鹿にしてきた。先住民かどうか真偽も問われ、2018年10月半ばにウォーレン氏は遠い祖先に先住民がい

   るとしたDNA鑑定を突如公開した。だが、先住民の「チェロキー・ネーション」からはDNA鑑定について

   「不適切で間違っている」と反発される事態を招いた。部族は独自の基準を持っており、部族の市民の名

   誉を傷つけるものだと先住民の指導者が声明で痛烈な批判を加えた。マイノリティ属性の政治利用が、先

   住民文化への理解不足で頓挫した格好に。

 ・ 都市部の住宅問題と経済力による分断

   ・ 熱心な「アイデンティティ政治」の活動家は、白人の高学歴層。

   ・ 民主党を分断するより深刻な問題は、教育・所得をめぐる格差。

   ・ 大卒・中間所得以上の層は白人。黒人やヒスパニック系の多くは非大卒層に属する。彼らは人種・エ

     スニック的にはマイノリティで、経済的な安定を求めているため、「アイデンティティ政治」よりも

     白人労働者の苦境に共感を抱く。

   ・ 沿岸部や大都市に住み、ライフスタイルとして環境保護やニューエイジ文化を好み、LGBTの権利に賛

     同する富裕な「リムジン・リベラル」は以前から存在したが、民主党内の教育・所得格差の拡大は都

     市部への富裕層の集中に見られる。

   ・ 都市部の不動産の高騰で、高所得層しか都市に住めなくなり、リベラル都市の高学歴・高所得化が加

     速している。

   ・ 「アーバン・リベラル・ホワイト」は人種的な正義にはうるさいという自己認識を持ちながらも、他

     方で自分の地域のことになると「NIMBY」(Not in my backyard)精神を発揮し、極めて狭量にな

     る傾向がある。2000年代までは都市部に黒人が流入し、白人が郊外に逃げるというパターンが顕著で

     あったが、ニューヨーク、ボストン、サンフランシスコ、シアトル、ワシントンDCなどでは、高学歴

     層の流入の一方、貧困層が追い出される逆転現象が起きている。

 

 以上から、バイデン民主党政権、米国政治を評価してみます。

 

  民主党の「アイデンティティ政治」を牽引しているのは、世間知らずの富裕層の子弟であり、彼らが支持しているは極左です。

 一方、支持層の大部分を占めるのは、都市部の貧困層であり、彼らは自分達を経済的に支援してくれる人であれば、正直誰でもいいのです。民主党支持基盤は、呉越同舟であり、政治信条という点においては、極めて脆弱であると言えます。

 

 バイデン政権が、警察予算を削減し、大麻の合法化を進め、不法移民の流入を許すことで、政府に頼らなければならない生活できない都市部の貧困層の増加を促すことで、民主党の票田を固めることに腐心していると言えます。

 このまま何もしなければ、選挙を行っても民主党が勝ち続け、米国は行政、司法、立法を、常に民主党が握る共産主義的な世界に変わる可能性すらあります。

 

  主流メディアはもちろんのこと、メジャーなSNSであるTwitter、Facebook、Youtubeまでが、何故ドナルド・トランプ氏を締め出さなければならないかが、容易に想像できると思います。良心に従ったメッセージが一番怖く、本当の事を言われたくないといったところでしょうか?

 

 メディアへの露出が極端に減少したドナルド・トランプ氏が率いる共和党が、来年の中間選挙において、上下院で挽回することになれば、民主党の政策を大きく後退させることになるかも知れません。すなわち、気候変動や環境問題、エネルギー政策といった、欧州大陸と足並みを揃えた利権色が強い政策の実現が困難になり、また足許、若干緩んでいる対中姿勢が再び強化されるかもしれないのです。

 

(令和3年9月)

 

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