2017年08月28日
元信託銀行・株式ファンドマネージャーから No.17
<インデックス連動運用と議決権>
インデックス(日経225、TOPIX、米S&P500)等指数に連動する投資信託(上場ETFを含む)、年金信託等が株式市場全体に占めるウェイトは、昨今ますます増加する傾向がありますが、これによる問題点について言及します。
まず、「個別株と株価指数」について、おさらいします。投資家である私達は、一般的には、上場株式を発行している企業を選別してその企業の株式持ち分を売買します。個別の株価が上昇、下落することは感覚的に分かりやすいのですが、東京証券取引所上場の2022銘柄の動きの結果として全体的としての上昇、下落については、感覚的には分かりにくいものです。そこで、全体の動きが分かりやすくするため、時価総額の動きを反映するように指数化したものが東証株価指数になります。指数には、他に計算方式に差はありますが、日経株価指数、JPX日経インデックス400、東証マザーズ指数等があります。
個人、年金基金、財団等の顧客の資金を預かり、運用する役目を担っている主体が、運用会社、信託銀行、生命保険会社等です。個別銘柄の調査、企業評価、株価評価等を行い、上場銘柄を複数保有するオーソドックスなタイプの運用スタイルをアクティブ運用、株価指数に連動させた運用スタイルがパッシブ運用と呼ばれています。
本来は、オーソドックスなアクティブ運用の成果を評価する対象として、株価指数が使われていましたが、その後、アクティブ運用がベンチマークとする株価指数を上回る成果を出していないことも多くあり、選択肢として株価指数に追随するパッシブ運用が生まれました。
最近は、調査等のコストがかからない分、「アクティブ運用に比べ、運用報酬が相対的に低い」、「アクティブ運用は必ずしもベンチマークを上回らない」等の理由からパッシブ運用の全体の運用資産に占める割合が増えているようです。
ただ、原点に帰って考えれば、アクティブ運用は、受託した資金を増加させることを最終的な目標として、長期的な視点で、企業を選別し、資金投下するだけではなく、大株主として、株主価値を高めるために、議決権の行使という形で経営に介入することを旨とする運用スタイルです。一方、株価指数には、株式市場全体の動きを示す機能のほかに、ある期間におけるアクティブ運用の運用成果を示すモノサシの機能等しかありません。
つまり、パッシブ運用のチャームポイントは、銘柄調査のコストや議決権の行使のコストを省いた分だけ、運用報酬が相対的に低コストでも顧客にサービスを提供できる点であるはずです。
しかしながら、これらの動きとは別に、日本では、当局主導で、投資対象である企業にはコーポレート・ガバナンス強化、運用会社側には、日本版スチュワードシップ・コード(運用会社は投資先企業の経営陣との建設的な対話によって、投資先企業の企業価値を高める姿勢を示す)を求める等、いわば行政指導が行われています。
そうなると、手間を省く代わりに低コストの運用報酬のパッシブ運用先すべての議決権の行使を日本版スチュワードシップ・コードに沿って行う必要に迫られます。
私が考えるには、投資している個別企業の調査により、企業を理解し、経営の実態を把握した後、議決権を行使するのが妥当だと考えます。しかも議決権の行使というのは、議案毎に行われますので、ひとつの企業の複数の議案に対して、個別の判断をする負荷が掛かります。東証株価指数連動の投資信託は、運用報酬が相対的に低コストである点に変化がないとすれば、運用会社はコスト増分を薄めるため、合併により大規模化することで、一社あたりの収入水準を上げるしかなくなり、事実、運用業界にはそうした動きが見られます。
また、公的資金であるGPIFや日銀の買い入れ対象であるETFのウェイトが大きいこと=政府部門が大株主になること、についても、各々の当事者や社会に問題意識はあっても、方針についてクリアできていません。政府の政策が、省庁間の縦割りにより、統一感を持っていないことが、最大の原因だと考えます。
このように、我が国日本では、債券市場に続いて、株式市場に歪みが生じているため、日本市場のみならず、グローバルな目線で、一貫した投資哲学に従い、運用できる運用会社の商品を選択すべきだと考えます。
(平成29年8月)
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