元信託銀行・株式ファンドマネージャーから No.18 <S&P500指数礼賛!?>
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元信託銀行・株式ファンドマネージャーから No.18 <S&P500指数礼賛!?>

 

元信託銀行・株式ファンドマネージャーから No.18

 

<S&P500指数礼賛!?>

 

 最近、S&P500指数連動型インデックス投資信託が大人気です。

 

 まさに老いも若きも、という感じで、熱狂的に支持しておられる方もいらっしゃいます。「信じよ、さらば救われん。求めよ、さらば与えられん。」といったところでしょうか。

 この金融商品の是非について議論しても、妥協点は見いだせません。欧州で1618年から始まった30年戦争(宗教戦争:宗教や宗派の違いをめぐって、30年間も殺しあった戦争)のようです。

 過去30年チャート、10年チャートを見ると確かに右肩上がりなので、過去のどの時点でも投資しておけば、現時点で資産が増えていることが明白なので、説得力が高い証拠を備えていると言えましょう。

 

 話が少しずれてしまい恐縮ですが、約40年前、筆者が大学生時代の話をさせていただきます。

 友人達と声をかけ合って入れてもらったのは、「証券価格論」のゼミでした。株式投資の方法を教えてもらって、お金儲けできるのではないかという不純な動機によるものです。

 ゼミの研究テーマは「現代ポートフォリオ理論(MPT、Modern Portfolio Theory)」という聞きなれないものでした。この理論を簡単に申し上げると、資産運用において、価格変動リスクを抑えながら一定のリターンを期待するうえでは、ポ-トフォリオとして多数の銘柄や複数の資産に分散投資することが有効であるということを示した理論です。

 銘柄間や資産間の相関係数を考慮し、組み入れ比率を決定したポートフォリオを作れば、同じリターンでも価格変動リスクを極小化できるとしたものです。グラフを使って説明すると直感に訴えてわかりやすいのですが、言葉だけでの説明には限界がある領域です。これの元になる理論は1990年のノーベル経済学賞を受賞した米国のハリー・マーコウィッツが1950年代に提唱した分散投資理論です。

 株式投資で一儲けできることを期待して入ったゼミでしたが、数式(期待値、分散、標準偏差等統計関連)だらけで、一気に興味が薄れてしまいました。しかし、これが後に信託銀行で株式ファンドマネージャーとなるきっかけを与えてくれました。

 

 それはさておき、どんな経済理論や投資理論にも暗黙の大前提があります。現代ポートフォリオ理論の大前提は、「効率的市場仮説」が成り立っているというものです。

 この仮説は、金融市場における金融商品の価格は、その商品の価値を決定づける情報すべてが反映されているというものです。そのためには、市場参加者は他人に迎合することなく、独立しており、またすべての情報が瞬時に届けられ、その情報から金融商品の適正価値を即座に判断できるという投資のプロ顔負けのスーパーマンを想定しています。例えば、ある決算情報が発表された場合、その情報が発信された瞬間に、株価に反映されるため、発表された決算情報から、リターンを得られないというものです。また、情報効率性の度合いによって、「ウィーク」、「セミ・ストロング」、「ストロング」にわかれます。上述の記載は、「セミ・ストロング」型の情報効率性を前提にしています。「ストロング」型の情報効率性を前提にすれば、インサイダー情報すら価格に織り込まれていることになるため、流石に現実的ではないと思った次第です。

 

 議論が遠回りしてしまいましたが、申し上げたかったことは、自然科学分野にも前提条件はありますが、金融理論では更に大きな大前提が暗黙のうちに置かれているということです。

 

 例えば、市場では、株価は12か月先のEPS(Earnings Per Share:一株当たり利益)を反映していると言われることが多いです。S&P500指数の12か月先のEPSが220ポイント、PER(Price Earnings Ratio)が金利や実質金利との関係をヒストリカルに比較した結果、20倍を採用したという前提においては、S&P500の妥当価格は220(ポイント)×20(倍)=4,400ポイントとなります。

 EPSを予測するためには、S&P500指数採用企業の利益に影響を与える内外の景気動向、新しい商品やサービスの普及度合い、新技術動向、個別企業の投資、経費の動向、自社株買い等株数に直接影響与える要素、法人税率の変更等規制当局の動向を考慮する必要があります。

 また、PERを何倍に置くのかという作業は、金利、実質金利に影響を与えるFRBの金融政策、景気全体の方向感、市場参加者のリスク・アペタイト(リスク選好度)を考慮する必要があります。

 最近のS&P500指数は、50日とか100日移動平均値まで下落すると反発するという動きがあり、そういった動きに合わせてポジションを取れば、リターンが得られたというは、事実としてあります。それはそれとして、機関投資家は上述のような予測要素、投資判断の根拠について、顧客に説明する義務があります。上述した予測要素は、必ずしも当たる訳ではないことはよく理解しているうえで行います。

 考え方次第ということになろうかと思いますが、S&P500指数連動型インデックス投資信託を購入する、または、購入している、売却するという行動は、上述の複数のEPSに与える要素、PERの設定について、すべて考慮しているという暗黙の大前提に立っていることになります。

 

 しかし、それについては議論されることなく、いきなり指数こそが正しい、だから(少々の費用が発生しても、つまりその分、必ず指数に負け続けるとしても)指数に連動する投資信託で運用するのが正しいとする主張が実に多く見受けられます。

 インデックス投資信託を取得、保有するコストがアクティブ投資信託のそれよりも低い、そして過去のリターンの比較において、あまたあるアクティブ投資信託の多くがインデックス投資信託を下回っていることを理由に、インデックス投資信託が昨今、好まれています。

 もちろん、自身ですべての要素を予測して投資判断を行ったうえで、インデックス投資信託に取り組むという方もいることでしょう。

 

 それでも、アクティブ投資信託の中には、長期にわたってインデックス投資信託のリターンを上回っているものはあります。保有するコストはインデックス投資信託のそれよりは高いのですが、多くのファンドマネージャーやアナリストを抱え、日夜多くの銘柄の動向を調査、投資判断を行っています。

 読者の皆様が、幸運にもそのような優れたアクティブ投資信託にめぐり会えて、膨大な予測作業、投資判断を正当な対価として信託報酬を支払うことで、長期にわたってインデックス投資信託のリターンを上回ることが十分期待できるのであれば、面倒な作業は丸投げして優秀な運用者たちが取組むポートフォリオを分けてもらうほうが良いのではないかと筆者は思います。

 

 老後に向けた資産形成は、退職後の人生の経済的な不安要素を減らし、実り豊かな人生を送るための手段であり、資産形成自体が人生の目的ではないと筆者は考えますが、皆様はいかがでしょうか?

 

(令和3年9月)

 

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